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アルピニストと歌手と女川と

1月23日(月)、ある二人のお友達を連れて女川へ帰った。
前のブログにも書いた通り、「故郷を見て欲しい」という想いからだ。
せっかく行くなら、女川らしい部分を見てもらい、女川の人々と会話をして、今の女川を感じてもらいたいと私は考え、3つの場所を訪れることに決めた。

1つは、12月に訪れた指ヶ浜(さしがはま)。ここは女川町内でも一番北に位置し、ホヤなどの養殖が盛んな地域である。小さな浜があり部落の全部の家が消滅した地域である。それでも漁民は立ち上がりようやく養殖を再開した。
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40世帯ある仮設住宅に8畳ほどの集会所がある。小さなスペースではあるが、野口健さんのトーク&藤巻亮太さんの歌を聞いていただいた。漁師さん達は朝から海に出ていたが、この時間は休憩して集まってくれたのだった。こうした浜の人たちの暖かい歓迎が嬉しかった。健さんのヒマラヤでの過酷な経験話は、海の男達にも通じるところがあった。漁師さんたちの熱い眼差しは、私達を勇気づけてくれた。

最後に外で集合写真を撮ろうと思ったら、藤巻さんが「気持ちいいなぁ」と、いきなりギターを演奏し歌い出した。三陸の海のように澄んでいている歌声は、この浜で亡くなった方々の魂にも届いたであろう。ホヤが大きく育つ頃、またみんなで訪れたい。


2つめは小学校を訪れた。
私が卒業アルバムを作っている、女川一小の6年生を対象に授業をさせていただいた。45分という短い時間の中で、健さんは6年生がわかる言葉で、6年生が興味を引きそうな話題から話を始めた。ヒマラヤで体験した生と死について、健さんの言葉は痛いほど心の真ん中にずとーんと入ってきた。子供達の表情を見ていても、それが手に取るようにわかった。健さんの話だと、「これはオブラートに包むよりも、ちゃんと生と死について真実を伝えた方がいいんじゃないかな…」と授業の途中で感じたという。生きることの意味を語ってくれた。

最後の5分、健さんからの強いメッセージが伝えられた。「自分の目で見るということは、知るということ」ーー12歳が考えるには素晴らしいテーマだと思う。4月からずっと彼らを見てきているが、この授業の後で、彼らはとても大人に見えた。
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3つめは、清水地区にある仮設集会所を訪れた。
ここは清水仮設住宅(144世帯)と新田仮設住宅(92世帯)と、近隣に残った家に住む世帯がいくつかある。この仮設にたどり着くには、5mほどに積み上げられた瓦礫の山脈を通過しなくてはならない。震災から10ヶ月経ってもこの景色を眺め続け生活をしている。

健さんの話はここでもじーんと胸に響いた。やっぱり死に直面した経験と仲間を失ったエピソードは何度聞いても心を打たれる。女川の方々の心にも響いたと思う。そしてうるっと感動したときに、藤巻さんが歌うのだ。これには泣ける。そして元気が出る。新曲「光をあつめて」は、とても素晴らしい歌だった。この二人なければ出来ないイベントをしてくれた。
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人は辛さの中でも、小さな喜びを見つけ生きていかなければならない。時には背中を押してもらいたい時もあるだろうし、ちょっと寄りかかりたいときもある。心を解放させて笑いたい時もあるだろう。健さんと藤巻さんという最強ダッグが、そういう手助けをしてくれた。ありがとう。

そしてこの企画を支えてくれたスタップのみなさん、現地コーディネートしてくれた女川の友「Real eyE」のご夫婦にはとても感謝している。ありがとう。

震災以降、時間が経つにつれ支援の仕方は変わってきている。今回私たちは「与える」という一方通行な支援ではなく、「人々と交流する」という方向性を選んだ。こうした活動を通して、私達自身が女川の人々から学ぶことはとても大きい。そして私ひとりで女川に帰る時とは違った、別の角度から感じることもできた。一緒に行ってくれた健さん、藤巻さん、ありがとう。
by monchicamera | 2012-01-25 22:49 | 311とその後
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